学術誌で論文発表の新発見! 海の深さによって生息するアンモナイトの種類が異なることがわかった!

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

洋野町の場所と種市層の地層の写真
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種市層は水深20メートルにも満たない浅い海で形成された地層で、1975年にこの地層からアンモナイトとイノセラムス(白亜紀に絶滅した二枚貝)が見つかり、中生代白亜紀サントニアン期(約8360万〜8570万年前)に作られたと考えられました。この地域からの化石の産出は非常に稀で、最初の発見から50年に経った現在でも、岩手県立博物館に集められた標本は50個にも満たない状況です。参考までに、北海道では頑張れば1日で50個くらいはアンモナイトの化石を集められることもありますから、その希少さがわかると思います。

これらの化石がどんな種類なのかもあまり詳しく調べられていなかったので、今回改めて詳細な分類を行うことにしました。その結果、7種のアンモナイトと2種のイノセラムスに分類され、そのうち5種のアンモナイトと1種のイノセラムスは、この地層から初めて発見されたものであることがわかりました。これによって、いくつかの新しい発見がありました。
種市層から見つかったアンモナイトとイノセラムス二枚貝
例えば、今回見つかったイノセラムスの一種「プラチセラムス・ジャポニクス」は、地層の年代を決定する上で重要な「示準化石」として知られています。この種が種市層から見つかったことで、白亜紀カンパニアン期前期(約8020万〜8360万年前)に堆積した地層を含んでいることがはじめてわかりました。年代は地層の基本的なプロフィールのひとつなので、これを明らかにできたのは大きな成果です。
種市層の年代の改訂
また、アンモナイトの中には、伸ばしたバネのような形をした「ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム」が含まれていました。この種類は僕が2017年に北海道の標本で新種命名したもので、小さな破片でしたが、見た瞬間にそれとわかりました。これも北海道と岩手県内別地域のカンパニアン期前期の地層から見つかっている種類です。

さらに、トゲのあるバネ型の「ハイファントセラス・トランジトリウム」も見つかりました。この種類は僕が博士号を取得した際に、どの時代から出るのか、殻の形にどのくらい個性があるのか、などを北海道で詳しく調べた種類なので、やはりすぐに気づくことができました。

「ポリプチコセラス」という、クリップのような独特な形をしたアンモナイトも3種見つかりました。殻の凸凹や曲がり具合などから種を見分けられます。

また、今回調べた29個のアンモナイトの特性を見てみると、「異常巻」と呼ばれるグループが半数以上を占めていることもわかりました。これに続いて、突起などを発達させる種類も目立っています。これに対し、北海道の同時代の、より沖合の深い海でできた地層からよく見つかる、装飾がほとんどないアンモナイトはほとんど含まれていませんでした。このことは、浅海では異常巻や装飾型のアンモナイトがより多く生息し、殻の装飾が弱い種類の生息数が少なかった可能性を示しています。
種市層から見つかるアンモナイトと水深の関係・分類比率
このように、今回の研究で、種市層から見つかるアンモナイトの種類を調べたことで、地層の年代が見直され、アンモナイトの種類ごとの棲み分け生態が明らかになったのです。

この研究は、岩手県立博物館の望月貴史さんと一緒に行いました。2月の雪が舞う寒さの中、地層の厚みを測ったり、砂の粒の大きさを記録したりと大変なフィールドワークでしたが、望月さんの地層の知識とサポートがあったおかげで進めることができました。

このように、どんな種類の化石がどこから見つかるのかを調べることは古生物学の基本ですが、実は古生物学だけでなく、たとえば現生生物を扱う昆虫生態学でも同じで、「どこにどんな昆虫がいるか」をまず知ることが大切だと、知り合いの研究者が話していました。

今後もいろいろな地域のアンモナイトを調べて、一種一種の空間的・時間的な分布を明らかにすることが目標です。
Aiba, D. and Mochizuki, T., 2025: Ammonoids and inoceramid bivalves from the Upper Cretaceous shallow marine deposits of Taneichi Formation in Hirono Town, Iwate Prefecture, northeastern Japan: implication for biostratigraphy, Cretaceous Research, vol. 175, 106148. [日本の東北地域、岩手県洋野町に分布する白亜紀後期の浅海層 種市層から産出したアンモナイト類およびイノセラムス二枚貝類:生層序学的意義]

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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。